五十有余

原文

  1. `この比よりは大方せぬならでは手立あるまじ
  2. `麒麟も老いては駑馬に劣る
  3. `と申すことあり
  4. `さりながら真に得たらん能者ならば物数は皆々失せて善悪見所はすくなしとも花は残るべし
  5. `亡父にて候ひし者は五十二と申しし五月十九日に死去せしがその月の四日の日駿河国浅間の御前にて法楽仕りその日の申楽殊に花やかにて見物の上下一同に褒美せしなり
  6. `凡そその比物数をばはや今の初心にゆづりてやすき所を少々と色へてせしかども花はましに見えしなり
  7. `これまことに得たりし花なるが故に能は枝葉もすくなく老木になるまで花は散らで残りしなり
  8. `これまのあたり老骨に残りし花の証拠なり
  1. `年来稽古 以上