総説

原文

  1. `物まねの品々筆に尽しがたし
  2. `さりながらこの道の肝要なればその品々をいかにもいかにも嗜むべし
  3. `凡そ何事をも残さずよく似せんが本意なり
  4. `れどもまた事によりて濃ききを知るべし
  1. `づ国王大臣より始めたてまつりて公家の御たたずまひ武家の御進退は及ぶべきところにあらざれば十分ならんことかたし
  2. `さりながらよくよく言葉を尋ね品を求めて見所の御意見を待つべきものなり
  3. `その外上職の品々花鳥風月の事態いかにもいかにもこまかにすべし
  4. `田夫野人の事にいたりてはさのみにこまかに賤しげなるわざをば似すべからず
  5. `仮令樵夫 草刈 炭焼 塩汲なんどの風情にもなりつべきわざをばこまかに似すべきか
  6. `それよりなほくはしからん下職をばさのみには似すまじきなり
  7. `これ上方の御目に見ゆべからず
  8. `し見えばあまりに賤しくておもしろき所あるべからず
  9. `このあてがひをよくよく心べし
  10. `似事人体によりて浅深あるべきなり