(一六三)亀を買ひて放す事

現代語訳

  1. `昔、天竺の人が宝を買うため、五十貫を子供に持たせた
  2. `大きな川のほとりを歩いていると、舟に乗っている人がいた
  3. `舟の方を見ると、舟から亀が首を出していた
  4. `金を持った子供は立ち止まり、その亀を
  5. `どうするのですか
  6. `と尋ねると
  7. `殺して物を作る
  8. `と言った
  9. `その亀を買いたい
  10. `と言うと、この舟の人は
  11. `大切な理由があって手に入れた亀だから、いくら高くても譲れない
  12. `と断るので、さらに強く手を擦って頼み、この五十貫の銭で亀を買い取り、逃がしてやった
  1. `心中でこう思った
  2. `親が、隣の国で宝を買うために持たせた銭を、亀を買うのに使ってしまっては、親にどれほど叱られるだろう
  3. `それでも、親のもとへ帰らないわけにはいかないので、仕方なく帰ろうとすると、その途中ですれ違う人から
  4. `ここであなたに亀を売った人は、川下で舟が転覆して死んでしまったぞ
  5. `と聞かされ、親のところへ帰って、持たされた銭で亀を買ってしまった話をしようと思っていると、親が
  6. `どうしてこの銭を私に返したのだ
  7. `と訊くので、子供が
  8. `そのようなことはしていません
  9. `持たされたお金は、しかじかのことがあって亀を買って放してやったので、そのことを話すのに戻ってきたんです
  10. `と言えば、親が
  11. `さっき、黒い衣を着た同じような姿の人が五人、各十貫ずつ私に届けに来た
  12. `これがそうだ
  13. `と言って、子供に見せたその銭はまだ濡れていた
  14. `それは、買って放してやった亀が、銭が川に落ちたのを見て拾い、親のもとへ子供が帰る前に渡したものであった