(一四〇)持経者叡実効験の事

現代語訳

  1. `昔、閑院大臣殿が三位中将の時、重いを患ったことがあったが
  2. `神名という所にいる叡実という持経者が瘧をよく祈り治す
  3. `と言う人がいたので
  4. `この持経者に祈らせよう
  5. `と行こうとすれば、荒見川の辺りで早くも発作を起こした
  1. `寺も近くなり
  2. `ここから帰りようがない
  3. `と、我慢して神名まで行き、坊の軒に車を寄せて案内を申し入れると
  4. `近頃、蒜を食べたので不浄の身です
  5. `と言う
  6. `それでも
  7. `なんとか上人にお目にかかりたい
  8. `今から引き返すことはできません
  9. `と言うと
  10. `では、早くお入りください
  11. `と、坊の下ろし立ててある蔀を取って新しい筵を敷き
  12. `お入りください
  13. `と言ったので、中へ入った
  1. `持経者は沐浴をし、しばらくしてから出て会った
  2. `背の高い僧で、痩せこけており、見るからに貴げである
  3. `僧は
  4. `風邪の具合がひどかったので、医師の言葉に従い、蒜を食べておりました
  5. `しかしこうしてお出でになられたので、どうしてもと思い、出て参りました
  6. `法華経は浄不浄を嫌わぬ経ですので、読み奉りましょう
  7. `なにも問題はありますまい
  8. `と、数珠を揉み摺り、そばへ寄れば、なんとも頼もしい
  9. `額に手を当て、自分の膝を枕にさせて、寿量品を高い声を出して読む声は実に貴い
  10. `これほど貴いことがあったのか
  11. `とさえ思える
  12. `少しかすれた声高に誦す声は感動的であった
  13. `持経者は目から大きな涙をはらはらと落として限りなく泣いた
  14. `そのとき童病は落ちて、とても爽やかな心地となり、すっかり快復した
  15. `そして何度も後世まで契り、帰って行った
  16. `それから効験があるという評判が高まり、広まったという