(一四一)空也上人の臂観音院僧正祈り直す事

現代語訳

  1. `昔、空也上人が、申すべきことがあって、一条大臣・源雅信殿のもとへ参り、蔵人所に上っていた
  2. `余慶僧正も居合わせた
  3. `雑談などをしていると、僧正が
  4. `その腕はどうして折られたのですか
  5. `と尋ねた
  6. `上人は
  7. `幼少の時、私の母が怒り、片手をつかんで投げたので、折れてしまったと聞いております
  8. `幼い時のことなので覚えておりません
  9. `左で助かりました
  10. `右腕を折っていたら
  11. `と言った
  1. `僧正が
  2. `御僧は貴い上人でおいでです
  3. `天皇の御子である
  4. `と人は言います
  5. `実にもったいないことです
  6. `御腕を祈り治して差し上げようと思いますが、いかがなものでしょうか
  7. `と言うと、上人が
  8. `ありがたく思います
  9. `とても貴いことです
  10. `どうかご祈祷をお願いします
  11. `と近くに寄ったので、殿中の人々も集まり、これを見た
  12. `そして、僧正が頭の上から黒煙を出して祈祷を行うと、少し後に曲がった腕が
  13. `ぴん
  14. `と音を立てて伸びた
  15. `すなわち右の腕のようにに伸びたのである
  16. `上人涙を流して三度礼拝した
  17. `見る者は皆感動し、声を上げたり、涙を流したりした
  1. `その日、上人は若い聖三人を連れていた
  2. `一人は縄を取り集める聖である
  3. `道に落ちている古い縄を拾い、壁土に加えて、古い堂の壊れたところに塗る
  4. `一人は瓜の皮を取り集め、水洗いをし、獄衆に与える
  5. `一人は不要な紙の落ちているのを拾い集め、紙にして経を書写し奉る
  6. `その紙拾いの聖を、腕が治った代わりに布施として僧正に奉ると、喜んで弟子にして
  7. `義観
  8. `と名づけた
  9. `ありがたいことである