十七八より

現代語訳

  1. `この時期はまたあまりの大事にて、稽古は多くない
  2. `まず、声変りを過ぎているために第一の花は失せている
  3. `体躯も伸びて腰高になり、持ち味であった妙齢の風合は失せて、かつての、声も盛りに、花やかに、容易であった時分からの移り変わりで、手立が俄に変わるため、意欲が削がれる
  4. `挙句、見物衆も滑稽に思っている気配が窺え、恥ずかしさなど彼此あってここで挫折してしまうのである
  5. `この時期の稽古においては、ひたすら、指をさして人に笑われようとも気にかけず、己が内で声の出し得る限りの調子で宵には存分に、暁には控え目に謡うすなわち宵暁の声を使い、心中には願いを込め
  6. `一期の境はここなのだ
  7. `と生涯をかけて能を捨てぬより他に稽古はない
  8. `ここで捨ててしまえばそのまま能は上達しなくなってしまう
  1. `総じて調子はその者の声によるが、雅楽の十二律、壱越断金平調勝絶下無双調鳧鐘黄鐘鸞鏡盤渉神仙上無の内の黄鐘から盤渉までを用いるのがよい
  2. `調子にあまりると身形に癖が付くものである
  3. `また、声も後年になって損ずる相である