一 兵法二つの字の利を知る事

現代語訳

  1. `この道において、太刀を振りこなせる者を
  2. `兵法者
  3. `と世間では言い伝えている
  4. `武芸の道に達して弓をよく射れば
  5. `射手
  6. `と言い、鉄砲を体得した者は
  7. `鉄砲打
  8. `と言う
  9. `槍を使いこなしては
  10. `槍使い
  11. `と言い、薙刀を覚えては
  12. `薙刀使い
  13. `と言う
  14. `それならば、太刀の道を覚えた者を
  15. `太刀使い
  16. `脇差使い
  17. `と言うことになる
  18. `弓、鉄砲、槍、薙刀、みなこれ武家の道具であるから、いずれも兵法の道である
  19. `にもかかわらず、太刀に限って
  20. `兵法
  21. `と言うことには道理がある
  1. `太刀の徳によって世を治め身を修めるのであるから、太刀は兵法の起こる所である
  2. `太刀の徳を得て後は一人して十人に勝つものである
  3. `一人にして十人に勝てば、百人して千人に勝ち、千人にして万人に勝つ
  4. `したがって、我が流の兵法においては、一人も万人も同じことにして、武士の法を残らず
  5. `兵法
  6. `と言うのである
  1. `道において、儒者、仏者、数寄者、躾者すなわち礼法を教える者、乱舞者すなわち能役者等などあるが、これらのことは武士の道にはない
  2. `その道にないとはいえ、道を広く知れば物事に役立つものである
  3. `いずれも人間すなわち世の中において、各々己の道をよく研鑽することが肝要である