一二(一四七)高忠の侍歌詠む事

現代語訳

  1. `昔、高忠という越前守の時代にとても不幸な侍がおり、昼夜勤勉であったが、冬でも帷子を着ていた
  2. `雪の多く降る日、この侍が、清めるべく、物でも憑いたようにふるうのを見て、守が
  3. `歌を詠め
  4. `趣深く降る雪だ
  5. `と言うと、この侍は
  6. `何を題に詠みましょう
  7. `と言うので
  8. `裸である由を詠め
  9. `と言えば、ほどなく、震える声を張り上げて詠みはじめた
  10. `はだかなる、我が身にかかる白雪は、うちふるえども、消せたりしない
  11. `そう詠むと、守はたいへん褒めて、着ていた衣を脱いで与えた
  12. `北の方も気の毒がって、薄色の素晴らしい衣を与えると、二つとも受け取って、丸めてたたみ、脇に挟んで立ち去った
  13. `詰め所へ行けば、居並ぶ侍たちが、驚きあやしんで尋ね
  14. `しかじか
  15. `と、理由を聞いてあきれた
  1. `この侍は、その後姿が見えなくなってしまったので、怪しんで、守が探させると、北山に尊い聖がおり、そこを訪れていた
  2. `そして、この得た衣を二つとも差し出し
  3. `すっかり年老いてしまった身の不幸は、年を追うごとに増えていきます
  4. `この世では益のない身でありました
  5. `後生こそは
  6. `と思い、法師になろうと思っていましたが、戒律を授けてくださる師が見つからなかったため、今まで過ごしてしまいましたが、こうして思いがけぬ物をいただいたので、たいへん嬉しく思い、これを布施として差し上げるのです
  7. `と言い
  8. `法師にさせてください
  9. `と涙にむせ返りながら、泣く泣く言ったので、聖は、たいへん尊がり、戒律を授けて法師にした
  10. `そして、そこから、行く先もないのに姿が見えなくなってしまった
  11. `居所知れずになったという