(一三八)慈恵僧正受戒の日延引の事

現代語訳

  1. `慈恵僧正が座主の時、受戒を行うべき定めの日にいつものごとく催しを設け、座主の出仕を待っていたところ、途中から急に帰ってしまったので、供の者らは
  2. `どうしたんだ
  3. `と不審に思った
  4. `宗徒や識衆も
  5. `これほどの大事で日も決まっていることを、今になって、さしたる障りもないのに延期なさるとはけしからん
  6. `とひどく非難した
  1. `諸国の沙弥らまでことごとく集まり、受戒を待っていると、横川の小綱を使いにして
  2. `本日の受戒は延期とする
  3. `日を改めて催しは執り行う
  4. `と仰せ下されたので
  5. `どうして中止なさったのですか
  6. `と尋ねた
  7. `使いは
  8. `まったくその理由はわからない
  9. `とにかく急いで走っていって、この由を申せとだけ仰ったのです
  10. `と言った
  11. `集まった人々は、各々得心がいかないまま退散した
  1. `すると、未の刻頃に大風が吹き、南門が俄に倒れた
  2. `そのとき人々は
  3. `このことがあるだろう
  4. `と事前に悟って延期されたのだな
  5. `と思い合わせた
  6. `受戒が行われていたら多くの人は皆殺されていただろう
  7. `と感じ入って騒いだ