(八八)賀茂の社より御幣紙米等給ふ事

現代語訳

  1. `昔、比叡山に僧がいた
  2. `たいへん貧しく、鞍馬寺に七日間お参りをした
  3. `夢にお告げが見えますように
  4. `とお参りしていたが、見えなかったので、あと七日延ばしてお参りしたが、それでも見えないので、七日ずつ延ばし延ばして百日お参りした
  1. `そして百日目の夜
  2. `我は知らぬ
  3. `清水へ参れ
  4. `と仰る夢を見たので、翌日から今度は清水寺へ百日お参りすれば、また
  5. `我は知らぬ
  6. `賀茂神社に参って申せ
  7. `と夢に見たので、今度は賀茂神社にお参りした
  1. `七日経った思ったが、例のごとく夢を見よう見ようとお参りすれば、百日目の夜
  2. `おまえがこうして参るのが気の毒だから、御幣紙や打徹の散米などを必ず授けよう
  3. `と仰る夢を見たので、目覚めはひどく憂鬱で、なんとも哀しかった
  4. `あちこちお参りして歩いたのに、挙句に仰せられたのがこれであるとは
  5. `打徹の代わりくらい賜ったところでどうなるものか
  6. `とはいえ、これから比叡山に帰るのも人目恥ずかしい
  7. `賀茂川に飛び込んでしまおうか
  8. `などと思ってはみたものの、やはり身は投げられない
  9. `では、いかようにお取り計らいくださるのだろう
  10. `と興味もあったので、もとの山の坊に帰っていたところ、知っている所から
  11. `お尋ね申す
  12. `と言う人がいる
  13. `誰だろう
  14. `と見てみると、白い長櫃を担ぎ、縁側に置いて帰っていった
  1. `とても怪しくて、使者を探したが、もうどこにもいなかった
  2. `持って来たものを開けてみると、白米と良質の紙が長櫃いっぱいに入っていた
  3. `これは見た夢のとおりだ
  4. `もしや他にもっとくださるんじゃないのかと思ったが、本当にこれだけくださったのか
  5. `と、とてもがっかりしたが
  6. `しかたない
  7. `と、この米をさまざまに使ってみると、いつも同じ分量があって一向になくならない
  8. `紙も同じように使ったが、なくならず、とりたてて立派ではないが、裕福な法師になった
  9. `やはり、お参りは気長にすべきである