(八四)世尊寺に死人を掘り出す事

現代語訳

  1. `昔、世尊寺というところは、桃園大納言・藤原師氏がお住まいであったが、近衛大将になる宣旨を受けられたので、大饗を催すために修理をして、まずお祝いをされ、宴は明後日というときにわかに亡くなった
  2. `使用人はみな離散し、奥方と若君のみが寂しく住んでおられた
  3. `その若君は、主殿頭ちかみつといった
  4. `この邸を一条摂政・藤原伊尹殿がお取りになり、太政大臣となって、大饗が催された
  5. `未申の角に塚があった
  6. `築地を築いて、その隅には下沓の型があった
  1. `殿は
  2. `そこに堂を建てよう
  3. `この塚を取り払い、その上に堂を建てよう
  4. `と決められたので、人々も
  5. `塚のために、立派な功徳になることです
  6. `と言い、塚を掘り崩すと、中に石の唐櫃があった
  7. `開けてみれば、年二十五・六くらいの、色美しく唇の色など生きているときと少しも変わらない、えもいわれず美しげな尼が眠るようにして横たわっていた
  8. `たいへん美しい色々の衣を着ていた
  9. `若かった者が、にわかに死んだのであろうか
  10. `金の器がきれいに据えられていた
  11. `入っていた物のみな香ばしいことは他に類がない
  12. `驚きながら、人々が立ち混み見ているときに、戌亥の方から風が吹くと、色々の塵となって失せてしまった
  13. `金の器より他のものは、なにひとつ残らない
  14. `はるか昔の人でも、骨や髪が散ることはない
  15. `このように風が吹き、塵になって吹き散らされてしまうというのは、世にも不思議だ
  16. `と言って、当時、人は驚きあきれた
  17. `摂政殿がいくらも経たないうちに亡くなったので
  18. `この祟りではないか
  19. `と人は疑った