(七六)仮名暦あつらへたる事

現代語訳

  1. `これも昔の話、ある人の館に新入りの女官がおり、人に紙をもらって、同じ屋敷に住む若い僧に
  2. `仮名書きの暦を書いてください
  3. `と頼むので、僧は
  4. `お安い御用
  5. `と言って、書いてやった
  1. `初めの方はきちんと
  2. `神事、仏事によし
  3. `坎日、凶会日
  4. `などと書いていたが、だんだん後になって
  5. `もの食わぬ日
  6. `と書いたり、また
  7. `ものがあったら腹いっぱい食う日
  8. `などと書いたりした
  1. `この女官は
  2. `風変わりな暦だ
  3. `と思ったが、それほどひどいとは思いもせず
  4. `そうなのだろう
  5. `と思ってその通りにしていた
  1. `ところが、ある日の暦には
  2. `くそすべからず
  3. `と書いてあった
  4. `どうしよう
  5. `と思いはしたが
  6. `きっとそうなんだろう
  7. `と念じながら過ごせば、長凶会日のように
  8. `くそすべからず、くそすべからず
  9. `と続けざまに書いてあったので、二・三日は念じてはみたものの、もうどうにも堪えられなくなり、両手で尻を抱えて
  10. `どうしよう、どうしよう
  11. `と、身をよじって悶えているうちに、ものもおぼえずしてしまったという