一七(六九)慈恵僧正戒壇築かれたる事

現代語訳

  1. `これも昔の話、慈恵僧正は近江国浅井郡の人である
  2. `比叡山の戒壇を人夫が集まらずに築けなかった頃、浅井の郡司は親しい上に師匠と檀の間柄で、仏事を催すのに僧正をお招きしたときのこと、僧への食膳を用意し、目の前で大豆を煎り、酢をかけていると
  3. `どうして酢などかけるのか
  4. `と尋ねられたので、郡司は
  5. `すむつかりといって、暖かいときに酢をかければしわが寄ってよく挟めるのです
  6. `そうでなければ、滑って挟めません
  7. `と言った
  8. `僧正は
  9. `どうであろうと、なんの挟めぬことのあるものか
  10. `投げてよこしても、挟んで食ってみせる
  11. `と言うので
  12. `そんなことできるはずがありますまい
  13. `と、言い争った
  1. `僧正が
  2. `では、勝ったならば、話は他でもない、戒壇を築いていただきたい
  3. `と言うので
  4. `お安い御用
  5. `と、煎り豆を投げると、一間ほど退いていらして、一度も落さず挟まれた
  6. `それを見てあきれない者はなかった
  7. `いま搾ったばかり柚子の実をまぜて投げたのは、挟み滑らせられたが、落すことなく、再びそのまま挟まれたのだった
  8. `郡司は一族が多かったので、大勢動員し、何日も経たないうちに戒壇を築いたという