(五八)東北院菩提講の聖の事

現代語訳

  1. `東北院の菩提講を始めた聖は、もとはひどい悪人で、牢獄に七度も入った
  2. `七度目というとき、検非違使らが集まり
  3. `これは極悪人だ
  4. `一・二度でさえ投獄されるというのは人としてどうかと思うのに
  5. `ましてや繰り返し罪を犯し、七度になるとはとんでもないことだ
  6. `今度は足を切ってしまえ
  7. `と定めて足切りに連れて行き、切ろうとすると、そこに立派な人相見が現れた
  1. `その者がそこへ来て、足を切ろうとする者たちに近寄り
  2. `この人を我に免じて許されよ
  3. `この人は必ず極楽往生する相が出ておる
  4. `と言うので
  5. `戯言を言う、わけのわからぬ人相見をする坊さんだ
  6. `と言って、すぐ切りにかかれば、切ろうとする足の上にのぼり
  7. `この足の代わりに、我が足を切れ
  8. `極楽往生すべき相ある者の足を切らせるのを、見てはおれぬ
  9. `おうおう
  10. `と喚いたので、切ろうとする者らも対応に困り、検非違使に
  11. `こんなことがあるのです
  12. `と言えば、やんごとない相人の言うことなので、さすがに聞かぬわけにもいかず、別当に
  13. `こんなことがあるのです
  14. `と言うと
  15. `では許してやれ
  16. `と言ったので、男は許された
  17. `そのとき、この盗人は発心し、法師となり、すぐれた聖となって、この菩提講をはじめたのである
  1. `たしかに相は当たり、見事に往生を遂げた
  2. `だから、名を上げる人物は、その相があっても、その辺の人相見が見るものではない
  3. `始めた講が今日まで絶えないのは、実にたいしたものである