(五三)狐人に憑きてしとぎ食ふ事

現代語訳

  1. `昔、物の怪に憑かれた人のもとで、物の怪を取り除こうとしていたときのこと、物の怪が人に憑いて
  2. `我は祟りの物の怪ではない
  3. `浮かれて通りかかった狐である
  4. `墓場の小屋に子供たちがいるが、腹をすかしていて、こんな所には食い物もたくさんあるだろうとやって来た
  5. `神前のしとぎでも食べて、去ることにしよう
  6. `と言うので、しとぎを用意し、折敷いっぱいに盛ってやると、少し食い
  7. `ああうまい、ああうまい
  8. `と言った
  1. `この女がしとぎ欲しさに、憑き物のふりをして、こんなことを言ってるのだ
  2. `と、悪口を言い合った
  3. `紙をもらい、これを包んで帰って、ばあさんや子供らに食わせよう
  4. `と言って、紙を二枚交差させて包み、大きいのを腰に挟めば、胸に届くほどであった
  1. `そうして
  2. `追って下され
  3. `出ていこう
  4. `と修験者に言うので
  5. `去れ、去れ
  6. `と言うと、立ち上がり、倒れ臥した
  7. `しばらく経って、やがて起き上がると、懐のものはすっかり消えて失せていた
  8. `失せてしまったというのが不思議である