一二(四四)多田新発郎等の事

現代語訳

  1. `これも昔の話、多田満仲のもとに猛く悪しき従者がいた
  2. `生き物の命を奪うことを生業としていた
  3. `野に出、山に入って鹿を狩り鳥を取り、少しの善根もすることがなかった
  1. `あるとき、外へ狩りに出て、馬を走らせ、鹿を追った
  2. `矢をつがえ弓を引き、鹿をつけて行くと、道の途中に寺があった
  3. `その前を通り過ぎざま、ふと目をやれば、中に地蔵菩薩が立っていた
  4. `左手に弓を持ち、右の手で笠を外し、いささかの帰依心を起こして、走り過ぎていった
  5. `その後、何年も経ぬうちに、病の床につき、日々をひどく苦しみ患って、命絶えた
  1. `冥土に赴くと、閻魔庁に引き出された
  2. `見れば、多くの罪人が罪の軽重に従って、打たれ、罰せられているが、そのようすが実にむごい
  3. `自分の一生の罪業を思い浮かべると、たまらなく涙がこぼれてくる
  4. `そんなとき、一人の僧が現れ
  5. `おまえを助けようと思う
  6. `早く故郷へ帰り、罪を懺悔せよ
  7. `と言った
  8. `僧に
  9. `あなたはいったいどなたで、そのように仰せられるのですか
  10. `と尋ねると
  11. `僧が
  12. `我は、おまえが鹿を追って寺の前を通り過ぎようとしたとき、寺の中におり、おまえに見えた地蔵菩薩である
  13. `おまえの罪業はとても重いものではあるが、わずかながらも我に帰依の心を起こした功徳により、我は今おまえを救おうおとしている
  14. `と言われたと思い、蘇生した後は、殺生を長く断ち、地蔵菩薩にお仕えした