二二金峰山薄打の事

現代語訳

  1. `昔、七条に箔打がいた
  2. `御岳詣をしていた
  3. `お参りし、岩が崩れて金が露出した所を通ったとき、ふと見れば、本物の金のようなものがあった
  4. `嬉しく思い、その金を取ると、袖に包んで家に帰った
  5. `削り下ろしてみればきらきらとして、本物の金であったため
  6. `不思議なことだ
  7. `この金を取れば、雷が鳴り、地震が起こり、雨が降るなどして絶対取れないはずなのに、これはそんなことがなかった
  8. `これからもこの金を取って暮らしの足しにしよう
  9. `と嬉しくなって、秤にかけてみれば十八両あった
  10. `これを箔にすると、七・八千枚になる
  11. `これをまとめて全部買う人はいないものだろうか
  12. `と思いつつ、しばらく持っていると
  13. `検非違使の人が
  14. `東寺の仏を造るのに箔をたくさん買いたい
  15. `と言っている
  16. `と告げる人があった
  17. `喜んで、懐に入れて出かけていった
  1. `箔はお要りですか
  2. `と言うと
  3. `いかほど持っているのか
  4. `と問うので
  5. `七・八千枚ほどでございます
  6. `と答えれば
  7. `持って参ったのか
  8. `と問うので
  9. `はい
  10. `と、懐中より紙の包みを取り出した
  11. `見れば、破れなく打ち延ばされ、色も美しかったので
  12. `広げて数えよう
  13. `と見れば、小さな文字で
  14. `金御岳、金御岳
  15. `と悉く書かれていた
  1. `得心がいかず
  2. `この書付けは、何のための書付けか
  3. `と問えば、箔打は
  4. `書付けなどございません
  5. `何のための書付けでございましょう
  6. `と答えたので
  7. `現にある
  8. `これを見よ
  9. `と見せたのを箔打が見ると、たしかにあった
  10. `いったいどういうことだ
  11. `と思い、口もきけなかった
  12. `検非違使は
  13. `これはただごとではない
  14. `わけがありそうだな
  15. `と、仲間を呼び寄せ、金を看督長に持たせると、箔打を連れて別当のもとへ行った
  1. `件の話を伝えると、別当は驚き
  2. `はやく河原へ連れて行き、問い質せ
  3. `と命じられたので、検非違使たちは河原へ行き、寄せ柱を立てて、体が動かないように磔をして、七十回拷問すれば、背中は紅の練単を水に濡らして着せたように、びしょびしょになり、さらに監獄に入れたので、わずか十日ほどで死んでしまった
  4. `その後、箔を金峰山に返し、元の所に置いたと語り伝えられている
  5. `それからは、人は恐れて、ますますその金を取ろうと思う人はなくなった
  6. `ああ恐ろしい