(二一)同僧正大岳の岩祈り失ふ事

現代語訳

  1. `昔、静観僧正は比叡山の西塔の千住院という所に住まわれていた
  2. `そこは南向きで、大嶽を見守る場所であった
  3. `大嶽の北西の急斜面に大きな岩があった
  4. `その岩の有様は、龍の口を開けた姿に似ていた
  5. `その岩の筋向いに住む僧たちは短命で、数多く死んだ
  6. `しばらくは
  7. `どうして死ぬのだろうか
  8. `と得心がいかずにいたが
  9. `この岩があるせいだ
  10. `と言うようになった
  11. `そして、この岩を
  12. `毒龍の岩
  13. `と名づけた
  14. `これにより、西塔は荒れに荒れてしまった
  15. `千手院にも多くの死者が出、住みづらくなった
  1. `この岩を見れば、本当に龍が大口を開いた姿に似ている
  2. `人の言うことは、たしかにもっともだ
  3. `と僧正は思われ、この岩の方に向かって、七日七夜、加持祈祷を行なうと、七日目の夜半に、空が曇り、激しい地震があった
  4. `大嶽には黒雲がかかって見えない
  5. `しばらくすると、空は晴れた
  1. `夜が明けて、大嶽を見れば、毒龍の岩は砕け散ってなくなっていた
  2. `それより後、西塔に人が住んだが、祟りはなかった
  3. `西塔の僧たちは、件の座主を今でも尊び、拝んでいると語り伝えられている
  4. `不思議なことである