(七)龍門の聖鹿に代はらんとする事

現代語訳

  1. `大和の国の龍門という所に聖がいた
  2. `住んでいる所を名にし
  3. `龍門の聖
  4. `と言った
  5. `その聖と親しい男が、鹿を火で誘う照射という狩りをして日夜鹿を殺していた頃のこと、とても暗い夜、照射に出かけた
  1. `鹿を探し歩いていると、目を合わせたので
  2. `鹿がいた
  3. `と火串を振り回せば、たしかに目を合わせた
  4. `矢頃の間合いをとり、火串を引っかけ、矢を番えて射るべく弓を引き起こして見るに、この鹿の目の間隔が普通の鹿の目より狭く、目の色も違っていたので
  5. `どうも妙だ
  6. `と思い、弓を引きやめてよく見たが、やはり妙に思え、矢を外し、火をかざして見ると
  7. `鹿の目でないことがわかった
  8. `と見て
  9. `起きるなら起きろ
  10. `と思い、近くへ回し寄せて見れば、身は一張りの革であった
  11. `やはり鹿だ
  12. `と、また射ようとしたが、やはり目が違うので、さらに近寄って見れば、法師の頭と見た
  13. `どういうことだ
  14. `と、走り寄り、火を吹き芯を折って明るくして見ると、この聖が瞬きをして、鹿の革を被って伏していたのだった
  1. `これはいったい
  2. `どうしてこんなことをしておられるのですか
  3. `と言うと、ほろほろと泣いて
  4. `おぬしは、制するのも聞かず、よく鹿を殺す
  5. `私が鹿に変わって殺されれば、少しは止めるだろう
  6. `そう思い、こうして射られようとしていたのだ
  7. `だが残念にも射られなかった
  8. `と言うので、この男は、転げ回って泣き
  9. `これほど思っていただいたことを、あながちにしてしまいまして
  10. `と、その場で刀を抜いて、弓を斬り、背負いの矢筒などすべてへし折り、髻を斬り、そのまま聖について行き、法師となって、聖の生きている限り、聖に使われ、聖が亡くなると、代わって、またそこで修行をしていたという