(六)中納言師時法師の玉茎検知の事

現代語訳

  1. `これも昔の話、中納言師時という人がいらした
  2. `その屋敷に、真っ黒な墨染めの短い衣に不動袈裟という袈裟を掛け、無患子の大きな数珠を首から下げた聖が入ってきて立っていた
  3. `中納言が
  4. `そなたはいかなる僧か
  5. `と尋ねられると、実に哀れんだ声で
  6. `仮の世とははかなく忍びがたいもので、昔から連綿と生死を流転するのは、考えてみれば、煩悩に引き止められ、今こうして憂き世を出られないからでありましょう
  7. `これを無益と思い、煩悩を切り捨てて
  8. `ひとえにこのたび生死の境を抜けだそう
  9. `と決心した聖人でございます
  10. `と言う
  11. `中納言が
  12. `ではどうやって煩悩を切り捨てたのか
  13. `と尋ねられると
  14. `さあ、これをご覧ください
  15. `と言って衣の前をかき上げて見せると、たしかに陰茎がなく、毛ばかりが生えていた
  16. `これは不思議だ
  17. `とご覧になると、ぶらりと下がった袋がどうも奇妙なので
  18. `誰か参れ
  19. `と呼ばれると、侍が二・三人やって来た
  1. `中納言が
  2. `その法師を引っ張れ
  3. `と命じられると、聖は目を見張って念仏を唱え
  4. `さあさあお好きなようにどうぞ
  5. `と言い、哀れげな顔つきをし、足を広げてごろりと横たわったので、中納言が
  6. `その足を広げよ
  7. `と言われると、二・三人が寄ってきて引き広げた
  1. `そこに十二・三歳ほどの小侍を呼び出して
  2. `あの法師の股の上を手を上げ下げしてさすれ
  3. `と命じられると、言われるままにふくよかな手で上げ下げしてさする
  4. `そのうち、この聖は真顔になり
  5. `もうおやめください
  6. `と言ったが、中納言が
  7. `気持ちよくなってきたようだな
  8. `よし、もっとさすれ
  9. `それそれ
  10. `とけしかけられると、聖は
  11. `なんだかへんな気分になってきました
  12. `もうやめて
  13. `と訴えるのを、なおさらさすりまくれば、毛の中から松茸の大きいような物がふらふらと出てきて、腹にぴたぴたと当たった
  14. `中納言をはじめ、そこいらに集まった者らは声をそろえて笑った
  15. `聖も手を打って笑い転げた
  1. `実は、陰茎を下の袋にひねり入れ、米粒の糊で毛くっつけてわからなくし、人を騙して物乞いをしようとしていたのだった
  2. `狂惑の法師である