六六中納言師時法師の玉茎検知の事
現代語訳
- `これも昔の話、中納言師時という人がいらした
- `その屋敷に、真っ黒な墨染めの短い衣に不動袈裟という袈裟を掛け、無患子の大きな数珠を首から下げた聖が入ってきて立っていた
- `中納言が
- `そなたはいかなる僧か
- `と尋ねられると、実に哀れんだ声で
- `仮の世とははかなく忍びがたいもので、昔から連綿と生死を流転するのは、考えてみれば、煩悩に引き止められ、今こうして憂き世を出られないからでありましょう
- `これを無益と思い、煩悩を切り捨てて
- `ひとえにこのたび生死の境を抜けだそう
- `と決心した聖人でございます
- `と言う
- `中納言が
- `ではどうやって煩悩を切り捨てたのか
- `と尋ねられると
- `さあ、これをご覧ください
- `と言って衣の前をかき上げて見せると、たしかに陰茎がなく、毛ばかりが生えていた
- `これは不思議だ
- `とご覧になると、ぶらりと下がった袋がどうも奇妙なので
- `誰か参れ
- `と呼ばれると、侍が二・三人やって来た
- `中納言が
- `その法師を引っ張れ
- `と命じられると、聖は目を見張って念仏を唱え
- `さあさあお好きなようにどうぞ
- `と言い、哀れげな顔つきをし、足を広げてごろりと横たわったので、中納言が
- `その足を広げよ
- `と言われると、二・三人が寄ってきて引き広げた
- `そこに十二・三歳ほどの小侍を呼び出して
- `あの法師の股の上を手を上げ下げしてさすれ
- `と命じられると、言われるままにふくよかな手で上げ下げしてさする
- `そのうち、この聖は真顔になり
- `もうおやめください
- `と言ったが、中納言が
- `気持ちよくなってきたようだな
- `よし、もっとさすれ
- `それそれ
- `とけしかけられると、聖は
- `なんだかへんな気分になってきました
- `もうやめて
- `と訴えるのを、なおさらさすりまくれば、毛の中から松茸の大きいような物がふらふらと出てきて、腹にぴたぴたと当たった
- `中納言をはじめ、そこいらに集まった者らは声をそろえて笑った
- `聖も手を打って笑い転げた
- `実は、陰茎を下の袋にひねり入れ、米粒の糊で毛くっつけてわからなくし、人を騙して物乞いをしようとしていたのだった
- `狂惑の法師である