(一七八)新羅国の后金榻の事

原文

  1. `これも今は昔新羅国に后おはしけり
  2. `その后忍びて密男を設けてけり
  3. `帝この由を聞き給ひて后を捕へて髪に縄を付けて上へ釣りつけて足を二三尺ばかり引き上げて置きたりければすべきやうもなくて心の中に思ひ給ひけるやう
  4. `かかる悲しき目を見れども助くる人もなし
  5. `伝へて聞けばこの国より東に日本といふ国あなり
  6. `その国に長谷観音と申す仏現じ給ふなり
  7. `菩薩の御慈悲この国まで聞えてはかりなし
  8. `頼みを懸け奉らば何どかは助け給はざらん
  9. `とて目をふさぎて念じ入り給ふほどに金の足の下に出で来ぬ
  10. `それを蹈まへて立てるに凡て苦しみなし
  11. `人の見るにはこの榻見えず
  1. `日此ありて免され給ひぬ
  2. `後に后持ち給へる宝どもを多く使を差して長谷寺に奉り給ふ
  3. `その中に大きなる鈴鏡金の簾今にありとぞ
  4. `かの観音念じ奉れば他国の人も験を蒙らずと云ふ事なしとなん