二二魂の行方

現代語訳

  1. `佐々木氏の曾祖母が年老いて死去したとき、棺に納め、親族の者集まってきて、その夜は皆座敷で寝た
  2. `死者の娘で乱心のために離縁させられた婦人もまたその中にいた
  3. `喪の間は火の気を絶やすことを忌むが、その土地の風習で、祖母と母との二人だけは、大きな囲炉裏の両側に座り、母はそばに炭籠を置き、ときおり炭を継いでいたところ、ふと裏口の方から足音がして来る者があるのを見れば、亡くなった老女であった
  4. `普段腰が曲がって着物の裾を引きずるために、三角に持ち上げて前に縫い付けてあったが、まったくそのとおりで、縞模様にも見覚えがあった
  5. `ああっと思う間もなく、二人の女の座っている炉のわきを通り過ぎるとき、裾で炭入れに触れると、丸い炭入れなので、くるくると回った
  6. `母は気丈な人なので、振り返って後を見送れば、親縁の人々の寝ている座敷の方へ近づいていくと思う程に、かの狂女がけたたましい声で、
  7. `おばあさんが来た
  8. `と叫んだ
  9. `他の人々はこの声に目を覚まし、ただ驚くばかりであったという

注釈

`マーテルリンクの侵入者を想い起こさせる