一二昔の人

現代語訳

  1. `土淵村山口に新田乙蔵という老人がいる
  2. `村の人は乙爺と呼ぶ
  3. `今は九十に近く、病でまさに死にかけている
  4. `年頃、遠野郷の昔の話をよく知っていて、
  5. `誰かに話して聞かせておきたい
  6. `と口癖のように言うが、あまりに臭いので、立ち寄って聞こうとする人はいない
  7. `あちこちの館の主の伝記、家々の盛衰、昔からこの郷で歌われていた歌の数々をはじめとして、深山の伝説、またはその奥に住む人々の物語など、この老人が最もよく知っている

注釈

`惜しいことに、乙爺は明治四十二年の夏のはじめに亡くなった