八六魂の行方

原文

  1. `土淵村の中央にて役場小学校などの在る所を字本宿と云ふ
  1. `此所に豆腐屋を業とする政と云ふ者、今三十六七なるべし
  2. `此人の父大病にて死なんとする頃、此村と小烏瀬川を隔てたる字下栃内に普請ありて、地固めの堂突を為す所へ、夕方に政の父来りて人々に挨拶し、
  3. `おれも堂突を為すべし
  4. `とて暫時仲間に入りて仕事を為し、暗くなりて皆と共に帰りたり
  5. `あとにて人々
  6. `あの人は大病の筈なるに
  7. `と少し不思議に思ひしが、後に聞けば其日亡くなりたりとのことなり
  8. `人々悔みに行き今日のことを語りしが、其時刻はも病人が息を引き取らんとする頃なりき