一八家の神 - ザシキワラシ、家の盛衰

原文

  1. `ザシキワラシ又女の児なることあり
  1. `同じ山口なる旧家にて山口孫左衛門と云ふ家には、童女の神二人いませりと云ふことを久しく言伝へたりしが、或年同じ村の何某と云ふ男、町より帰るとて留場の橋のほとりにて見馴れざる二人のよき娘に逢へり
  2. `物思はしき様子にて此方
  3. `お前たちはどこから来た
  4. `と問へば、
  5. `おら山口の孫左衛門が処から来た
  6. `と答ふ
  7. `から何処へ行くのか
  8. `と聞けば、
  9. `それの村の何某が家に
  10. `と答ふ
  11. `その何某は離れたる村にて今も立派に暮せる豪農なり
  12. `さては孫左衛門が世も末だな
  13. `と思ひしが、それより久しからずして、此家の主従二十幾人、茸の毒に中りて一日のうちに死に絶え、七歳の女の子一人を残せしが、其女も亦年老いて子無く、近き頃病みて失せたり