旅立

原文

  1. `弥生も末の七日明ぼのの空朧々として月は在明にて光さまれる物から不二の峰にみえて上野谷中の花の梢
  2. `又いつかは
  3. `と心ぼそし
  4. `むつましきかぎりは宵よりつどひて舟にて送る
  5. `千じゆと所にて船をあがれば前途三千里のおもひ胸にふさがりて幻のちまたに離別の泪をそそく
  6. `春や鳥の目は泪
  7. `矢立として道なすすまず
  8. `人々は途中にならびて
  9. `かげのみゆる迄は
  10. `と見なるべし