治承の辻風

現代語訳

  1. `また治承四年四月の頃、中御門京極の辺りから大きなつむじ風が起こり、六条辺りまで激しく吹き抜けたことがあった
  2. `三・四町に及んで吹きまくる中に巻き込まれた家々は、大小を問わず一つとして壊れないものはなかった
  3. `そのまま平らにひしげたものもあり、桁や柱だけが残っているのもあった
  4. `また門の上を吹き飛ばして、四・五町も先に落ちたり、垣根を吹き払って隣と一つになった家もあった
  5. `まして家の中の財宝は残らず空に吹き上がり、檜皮や葺板の類は冬の木の葉が風に乱れるがごとくであった
  6. `塵を煙のように吹きまくるので、なんにも見えない
  7. `凄まじく鳴り響く風に、話し声も聞こえない
  8. `かの地獄の業風もかくやと思われた
  9. `家屋の損壊のみならず、これを修繕するとき怪我をして不自由になった人も数知れない
  1. `この風は未申の方角に移りゆき、多くの人々を嘆かせた
  2. `つむじ風は常に吹くものであるが、これほど凄かったことがあっただろうか
  3. `ただごとではない
  4. `然るべき神仏の怒りか
  5. `などと疑ったものである