一〇四二飈

現代語訳

`さて、同・治承三年五月十二日午の刻頃、京中には猛烈なつむじ風が吹いて、多くの人家が倒壊した
`風は中御門京極から起こり、南西の方角へ吹いて行き、棟門・平門を吹き倒し、四・五町・十町ほど吹き進んだ
`桁や長押、柱などは宙を舞って吹き散らされた
`檜皮・葺板の屋根などは、冬の風に木の葉の舞うがごとくであった
`おびただしく鳴り響く轟音は、地獄の業風すらこれほどではないように見えた
`家屋が壊れるのみならず、命を失う者も多かった
`牛馬の類は無数に死んだ

`これはただ事ではない、占わねばなるまい
`と神祇官に命じて占わせた
`これから百日以内に高い禄を受けている大臣に慎しむべきことが起き、また天下の一大事が起き、仏法・王法は共に衰えて、戦乱が続くだろう
`と、神祇官・陰陽師が同じ結果を占い出した