一 他流に目付という事

現代語訳

  1. `目付すなわち目の付けどころ
  2. `といって、その流派により敵の太刀に目を付けるのもあり、または手に目を付ける流派もある
  3. `あるいは顔に目を付け、あるいは足などに目を付けることもある
  4. `その如く、とりわけて一つの所に目を付けようとしては紛れる心が生じて兵法の病というものになるのである
  5. `その子細であるが、たとえば鞠を蹴る人は、鞠によく目を付けずとも鬢摺を蹴り、負鞠仕流しても、蹴り回っても、蹴っている
  6. `物に慣れているところがあるため、しかと目で見る必要がない
  7. `また、田楽法師の伝統を継承する大道芸の放下などをする者のわざでも、その道に慣れてしまえば、扉を鼻に立て、刀を幾振りも手玉にとったりなどするものである
  8. `これみな、しかと目付しているわけではないが、常々手に触れているため、おのずと見えるのである
  9. `兵法の道においても、あの敵この敵と戦い慣れ、人の心の軽重を覚え、道を行い体得して後は太刀の遠近遅速までもみな見えるものである
  1. `兵法の目付は大方相手の心に付けた眼である
  2. `大分の兵法にいたっても、その敵の隊の形勢に付けた眼である
  3. `
  4. `
  5. `二つの見方のうち、観の目は強くして、敵の心を見、その場の形勢を見、大きく目を付けて、その戦の景気を見、その折節の強弱を見て、まさしく勝ちを得ることが専一である
  6. `大小の兵法において小さく目を付けることはない
  7. `前にも記した如く、こまやかに小さく目を付けることによって、大きな事を取り忘れ、迷う心が出てきて、確実な勝ちを逃がすものである
  8. `この利をよくよく吟味して鍛錬すべきである