一 枕をおさえるという事

現代語訳

  1. `枕をおさえる
  2. `とは
  3. `頭を上げさせぬという意味である
  4. `兵法の勝負の道に限れば、人に己の身を翻弄されて後につくのはまずい
  5. `どうにかして敵を自由に翻弄したいものである
  6. `したがって、敵もそのように思い、己もその心があるが、人のすることを受けたりしたりしていては叶い難いために、兵法で敵の打つところを止め、突くところをおさえ、組むところをもぎ離しなどすることである
  7. `枕をおさえるというのは、我が兵法の実の道を得て、敵にかかり合うとき、敵の何事なりとも思考する兆しを、敵がそれをせぬうちに察知して、敵の
  8. `
  9. `という
  10. `うつ
  11. `
  12. `
  13. `の字の頭をおさえて後すなわち つ の字をさせぬ心が枕をおさえる心である
  14. `たとえば敵の
  15. `かかる
  16. `という
  17. `
  18. `の字をおさえ
  19. `とぶ
  20. `という
  21. `
  22. `の字の頭をおさえ
  23. `きる
  24. `という
  25. `
  26. `の字の頭をおさえる
  27. `すべて同じ心である
  28. `敵が己になにかわざを為すことがあったとき、役に立たぬことを敵にまかせ、役に立つことをおさえて、敵にさせぬようにするところが兵法の専一である
  29. `これも敵のすることを
  30. `おさえよう、おさえよう
  31. `とする心は後手である
  32. `まず、己は何事においても、兵法の道に任せてわざを為す中で、敵も
  33. `わざをかけよう
  34. `と思う頭をおさえて、何事も役に立たせず、敵を砕くところ、これ兵法の達者、鍛錬あったが故である
  35. `枕をおさえること、よくよく吟味あるべきである