一〇 一 他流に奥表と云事

原文

  1. `兵法の事に於て
  2. `何れを
  3. `
  4. `といひ何れを
  5. `
  6. `と云ん
  7. `芸によりことにふれて
  8. `極意
  9. `秘伝
  10. `などいひて奥口あれ共敵と打合時の理に於ては表にて戦ひ奥をもつてきると云事に非ず
  11. `我兵法のおしへ様は始て道を学ぶ人には其わざのなりよき所をさせならはせ合点の早くゆく理を先に教へ心の及がたき事をば其人の心をほどくる所を見分て次第次第に深き所の理を後にる心也
  12. `され共大形は其事に対したる事様を覚えさするによつて
  13. `
  14. `
  15. `と云所なき事也
  16. `されば世の中に山の奥を尋るに
  17. `猶奥へ行ん
  18. `と思へば又口に出るもの也
  19. `何事の道に於ても奥の出合所も有口を出してよき事も有
  20. `此戦の理に於て何をかかくし何をか顕さん
  1. `によつて我道を伝るに誓紙罰文など云事を好まず
  2. `此道を学ぶ人の智力をうかがひなる道を教へ兵法の五道六道の悪しき所をすてさせおのづから武士の法の実の道に入うたがひなき心になす事我兵法の教への道也
  3. `能々鍛錬有べし