三 一 三ツの先と云事

原文

1. `三ツの先
2. `一ツは我方より敵へかかるせん
3. `けんの先
4. `と云ふ也
5. `又一ツは
6. `敵より我方へかかる時の先
7. `是は
8. `たいの先
9. `と云也
10. `又一ツは我もかかり敵もかかりあふ時の先
11. `体々の先
12. `と云
13. `是三ツの先也
14. `何れの戦ひ始にも此三ツの先より外はなし
15. `先の次第を以て勝事を得るものなれば先と云事兵法の第一也
16. `此先の子細様々は有りと云へ共其時の理を先とし敵の心を見我兵法の智恵を以て勝事なればこまやかに書分る事に非ず

1. `第一 懸の先
2. `我かからんと思ふ時静かにして居俄かにはやくかかる先
3. `うへを強くはやくして底を残す心の先
4. `又我心をいかにも強くして足は常の足に少はやく敵のわきへよると早くもみたつる先
5. `又心をはなつて初中後同じ事に敵をひしぐ心にて底まで強き心にて勝
6. `是何れも懸の先也

1. `第二 待の先
2. `敵我方へかかりくる時少しもかまはずよわき様に見せて敵近くなつて
3. `づん
4. `とつよくはなれて飛付様に見せて敵のたるみを見て直に強く勝事是一ツの先
5. `又敵かかりくる時我も猶強くなつて出る時敵のかかる拍子のかはる間をうけ其儘勝を得る事是待の先の理也

1. `第三 体々の先
2. `敵はやくかかるには我静に強くかかり敵近くなつて
3. `づん
4. `と思ひきる身にして敵のゆとりの見ゆる時直に強く勝
5. `又敵静かにかかる時我身うきやかに少はやくかかりて敵近くなりてひともみもみ敵の色に随て強く勝事是体々の先也

1. `此儀濃に云分がたし
2. `此書付を以て大形工夫有べし
3. `此三ツの先時に随ひ理に随ひいつにても我方よりかかる事には非るものなれ共同じくは我方よりかかりて敵をまはしたき事也
4. `何れも先の事兵法の智力を以て必ず勝事を得る心能々鍛錬有べし