一二一七一寂昭上人鉢を飛ばす事
    
     現代語訳
     
      - `昔、三河入道寂昭という人が唐に渡って後、唐の王がやんごとない聖たちを召し集め、堂を飾り、僧膳を設けて、経典を講じたときのこと、王が
 
      - `各々自分の鉢を飛ばし、食べ物を受けよ
 
      - `本日の供養の座に配膳係は不要である
 
      - `と仰せになった
 
      - `その心は、日本の僧を試みるためである
 
     
     
      - `さて、諸僧が一座より順に鉢を飛ばして食べ物を受ける
 
      - `三河入道は末座に着いていた
 
      - `その番になったので鉢を持って立とうとした
 
      - `どうした
 
      - `鉢を飛ばして受けよ
 
      - `と、人々が制止した
 
      - `寂昭は
 
      - `鉢を飛ばすことは、別の法を行なってすることです
 
      - `しかし、私はいまだその法を伝え行なっておりません
 
      - `日本国においても、この法を行う人はいますが、末世には行なう人はなくなりました
 
      - `どうして飛ばせましょう
 
      - `と言ったが
 
      - `日本の聖、鉢が遅い、鉢が遅い
 
      - `と責めるので、日本の方に向い、祈念して
 
      - `我が国の三宝・神祇お助けください
 
      - `恥をお見せにならないでください
 
      - `と念じ入っていると、鉢がまるでこまのようにくるくる回って、唐の僧の鉢よりも早く飛び、食べ物を受けて戻ってきた
 
     
     
      - `その時、王をはじめ
 
      - `やんごとない人だ
 
      - `と、拝んだと申し伝えられている