二二(一五七)陽成院妖物の事

現代語訳

  1. `昔、陽成院が退かれた後の御所は、大宮大路という道よりは北の、西洞院という道よりは西の、油小路という道よりは東の場所にあった
  2. `大きな池のある釣殿という建物で、見張りする者が居眠りをしていると、夜中、ほっそりした手がこの男の顔をさわさわと撫でた
  3. `気味が悪い
  4. `と思い、刀を抜いて、もう片方で捕まえると、浅黄の裃という着物を着たとてもみすぼらしい老人が
  5. `わしはここに昔住んでいた主である
  6. `浦島の子の弟である
  7. `昔からここに住んで、もう千二百年以上になる
  8. `どうか許してくだされ
  9. `ここに社を建てて祀ってくだされ
  10. `そうしたら、どんなことがあっても守ってさしあげよう
  11. `と言ったが
  12. `自分ひとりでは決められない
  13. `このことを院にお話しする
  14. `と言うと
  15. `憎い男の言い草だ
  16. `と、三度上の方へ蹴り上げ蹴り上げして、へなへなのくたくたにして、落ちてきたところを口を開けて食ってしまった
  17. `並みの人と同じくらいの男だと思って見ていると、みるみる大きくなって、この男を一口で食べてしまった