(一三六)達磨天竺の僧の行見る事

現代語訳

  1. `昔、天竺に一つの寺があった
  2. `住まう僧も多かった
  3. `達磨和尚がこの寺に入り、僧らの行いを窺えば、ある坊では、念仏し、経を読み、さまざまなことを行っている
  4. `別の坊を窺えば、八・九十歳ほどの老僧が、ただ二人いて碁を打っている
  5. `仏像もなく、経も見えない
  6. `ただ囲碁を打つより他は何もしていない
  1. `達磨和尚がその坊を出て、他の僧に尋ねると
  2. `その老僧二人は若い時分から囲碁の他は何もしていません
  3. `仏法のぶの字ひとつ聞いたことがありません
  4. `そのため、寺の僧は憎み卑しんで、交流することもありません
  5. `それでも供養などは受けているので
  6. `外道のごとく思っているのです
  7. `と答えた
  1. `和尚はこれを聞いて
  2. `きっと訳があるのだろう
  3. `と思い、その僧のそばにいて囲碁を打つ様子を見れば、一人は立っている
  4. `もう一人は座ると見えたが、忽然といなくなった
  5. `怪しく思い、立った僧が戻って座ったと見ていると、前にいた僧がいなくなった
  6. `見ていると、また出てきた
  7. `なるほど、そういうことか
  8. `と思い
  9. `囲碁の他には何もなさらないと伺いましたが、証果の上人でいらっしゃいましたか
  10. `事情をお聞かせ願いたい
  11. `と尋ねられると、老僧は
  12. `長年、このこと以外は何することもありません
  13. `ですが、黒が勝ったときは
  14. `我が煩悩が勝った
  15. `と悲しみ、白が勝ったときは
  16. `菩提が勝った
  17. `と喜びます
  18. `打つ度に、煩悩の黒を失い、菩提の白が勝つことを願います
  19. `この功徳によって証果の身となったのです
  20. `などと語った
  21. `和尚は坊を出て他の僧にこのことを語ると、長年憎み卑しんできた人々は後悔し、皆貴んだという