(一三〇)清水寺御帳賜る女の事

現代語訳

  1. `昔、頼るべきものなどなく、ひたすら清水寺にお参りをする女がいた
  2. `年月が積もっても、少しもご利益らしきことがないので、ますます生きるのがつらくなり、ついには長年住んでいたところを当て処なくさまよい出、寄る辺もないままに、泣く泣く観音を恨み
  3. `どんな前世の報いを受けているのかわかりませんが、少しばかり頼れるものをお恵みください
  4. `とよくよく願をかけ、御前にうつ伏し眠ると、その夜の夢に、観音様よりといって
  5. `それほど一途に申すので、気の毒に思われるが、わずかでも与えるべき頼りがなくて、そのことを思い、嘆くのだ
  6. `よって、これを授ける
  7. `と、御帳の帷子をきれいに畳んで前に置いた
  8. `と見て目が覚め、燈明の光で見れば、夢に見たように御帳の帷が畳まれて前にあるのを見て
  9. `さてはこれより他にお与えくださるべき物がないのかしら
  10. `と思うと、身の程が思い知られ、悲しくて
  11. `これは決していただきますまい
  12. `少しでも頼れるものがありましたなら、錦さえ御帳に縫って差し上げようと思っておりましたが、この御帳だけいただいて帰れるはずもありません
  13. `お返しいたします
  14. `と言って、犬防ぎの内に差し入れて置いた
  1. `そして再び微睡むと
  2. `どうしてさかしいのか
  3. `ただお授けなさろうとするものを受け取らず、こうして返そうとするとは
  4. `おかしなことだ
  5. `と、また授かる夢を見た
  6. `そして覚めればまた同じように前にあるので、泣く泣く返した
  1. `このようにして三度返し奉れば、それでもなお返し授かり、しまいには今度返せば無礼であるとの戒めを受けたが、そうとは知らない寺の僧が
  2. `御帳の帷子を盗んだのではないかと疑うかもしれない
  3. `と思うと心苦いので、まだ夜の深いうちに懐へ入れて出て行った
  4. `これをどうしたらいいだろう
  5. `と思い、引き広げて見て、着るべき衣もないので
  6. `そうだ、これを衣にして着よう
  7. `と思いついた
  1. `これを衣にして着てみたところ、その後、見る人見る人、男も女もみな、女がとても愛らしい人に思われて、知らない人の手からたくさんのものをもらった
  2. `大切な人の訴訟も、その衣を着て、見知らぬ位の高い場所へ参上し、口を開けば、必ずうまくいった
  3. `このようにしつつ、人の手からものを得、よい男にも愛されて、幸せに過ごした
  4. `だから、普段はその衣をしまっておき、必要だと思うときに取り出して着る
  5. `すると必ず叶うのだった