(一二二)小槻当平の事

現代語訳

  1. `昔、主計頭・小槻当平という人がいた
  2. `その子に大学寮で算術を教える者がいた
  3. `名は茂助という
  4. `主計頭忠臣の父で、淡路守大夫史・奉親の祖父である
  5. `長生きしたら頭角を現すべき人物なので
  6. `なんとか亡き者にできぬものか
  7. `この男に出世されたら、主計頭・主税頭・助・大夫史には、他の者らでは肩を並べることができまい
  8. `代々の役職である上、才知に長け、気立てもよく、六位ながら、世の評判も高まっているとなれば、死んでもらわねばならん
  9. `と思う人もあり、この人の家に神託をしたときに、その時の陰陽師に尋ねれば、厳重に慎むべき日を書き出し、手渡したので、そのまま門を堅く閉ざし、物忌みをしていると、敵対する者は隠れて陰陽師に死ぬ呪いをかけるように依頼し、呪いをかける陰陽師の
  10. `物忌みしているのは慎むべき日だからでしょう
  11. `その日に呪い合わせれば、効き目があるはずです
  12. `そこで、私を連れてその家へ参り、呼び出してください
  13. `門は物忌みならばよもや開けますまい
  14. `しかし、せめて声だけでも聞ければ、必ず呪いの効き目はあります
  15. `との言葉に従い、陰陽師を連れてその者の家へ行き、門をしきりに叩けば、下男が現れ
  16. `どなたです
  17. `門を叩くのは
  18. `と言うので
  19. `私が特に用があって参りました
  20. `厳重な物忌みではありますが、細めに開けて入れてください
  21. `大切な用事なのです
  22. `と言うと、下男は奥へ引き込み
  23. `こんなことを申しております
  24. `と告げれば
  25. `無茶な話だ
  26. `世の中に自分を大切に思わぬ者があるものか
  27. `入れることはできぬ
  28. `まったく無理なことだ
  29. `早く帰られよ
  30. `と言わせたので、再び現れてその由を伝えると
  31. `それならば、門を開けられずともその遣戸から顔をお出しください
  32. `自ら伺います
  33. `と言ったが、死ぬべき宿世であったのか
  34. `何事か
  35. `と、遣戸から顔を差し出せば、陰陽師が、その声を聞き、顔を見て、力の限りに呪った
  1. `この会おうと言った人は
  2. `とても大事なことを話す
  3. `とは言ったものの、話すこともなかったので
  4. `これから田舎へ参りますので、その由を話そうと参りました
  5. `もう入って結構です
  6. `と言うと
  7. `大事なことでもないことなのに、こうして人を呼び出すとは、まったくふざけた人だ
  8. `と言って入った
  1. `それからまもなく、頭痛をわずらい、三日目に死んでしまった
  2. `だから、物忌みには声高によその人に会ってはならない
  3. `このように呪いをする人のためには、それにつけて、こういうことをするのは、実に恐ろしいことである
  4. `そして、その呪い事をさせた人も、いくらもしないうち災いに遭って死んでしまったという
  5. `身に負ってしまったのだろうか
  6. `恐ろしいことだ
  7. `と、人は語った