(一一一)歌詠みて罪を許さるる事

現代語訳

  1. `昔、大隈守という人が、国の政を司っていたときのこと、郡司がだらしないので
  2. `召しにやって戒めよう
  3. `と言って、これまでのように、だらしないときには、罪に応じ、重く、軽く、こらしめることがあったが、一度のみならず度々だらしなかったことから
  4. `重く戒める
  5. `ということで召すのであった
  1. `ここに召し連れて参りました
  2. `と人が言うので、これまで同様に引き伏せて、尻と頭に上る人、鞭を用意し、それを打つ者を待機させ、先に人二人が引っぱって出てきたのを見れば、頭は黒髪も交じらず、真っ白で、年老いていた
  3. `見れば、笞打つのもかわいそうなので
  4. `なにかにかこつけてこれを許してやろう
  5. `と思うものの、理由が浮かばない
  6. `過ちを片っ端から問いただすも、ただ老いを口実にするばかりである
  7. `なんとかしてこれを許そう
  8. `と思って
  9. `おまえはまったく悪い奴だ
  10. `歌は詠むのか
  11. `と言うと
  12. `うまくはございませんが、詠みます
  13. `と言うので
  14. `ならば詠んでみよ
  15. `と言われ、ほどなく、震えた声で詠みはじめた
  16. `年を経て、頭の雪は積もっても、霜を見ると、身が震えます
  17. `と詠むと、非常に同情し、感じ入って許した
  18. `人は、いかなるものにも情けはもつべきである