(八六)清水寺に二千度参詣の者双六に打入るる事

現代語訳

  1. `昔、ある人のもとに宮仕えしている貧しい侍がいた
  2. `やることもないので、清水へ、人の真似をして、千度詣を二度行った
  3. `その後まもなく、主人に仕えている自分と同じような侍と双六を打ったところ、大負けしてしまったが、渡すべきものがなく、ひどく責められたので、考えた末
  4. `おれは、何も持ってない
  5. `いまあるものといえば、清水に二千度詣でたことだけだ
  6. `それをやろう
  7. `と言うと、それを傍らで聞いていた人は
  8. `だます気だな
  9. `と内心馬鹿にして笑ったが、勝った方の侍は
  10. `そりゃあおもしろい
  11. `くれるなら、もらおうじゃないか
  12. `と言い
  13. `だが、そのままでは受け取らん
  14. `三日後、このことを誓い、おぬしが渡す旨を一筆したためるなら受け取ろう
  15. `と言うので
  16. `よしわかった
  17. `と約束をし、その日から精進して三日後
  18. `では清水へ行こう
  19. `と言うと、負け侍は
  20. `痴れ者に会ったものだ
  21. `とおかしく思いつつ、嬉々として詣でた
  22. `そして、言うままに証文を書き、御前で師の僧を呼んで、事の次第を話させ
  23. `二千度参ったことを、その者に双六の負け分として入れた
  24. `と書かせると、それを受け取り喜んで、伏し拝んで帰って行った
  1. `その後、程なくして、この負け侍は思いがけぬことで捕らえられ、投獄された
  2. `勝った侍は、思いがけず頼れる家柄の妻を娶り、運も向き、司などに出世し、幸せになった
  3. `目に見えぬ物ではあるが、誠の心をもって受け取ったので、仏も慈悲を与えてくださったのだろう
  4. `と人々は言った