(一)道命阿闍梨和泉式部の許に於いて読経し五条道祖神聴聞の事

現代語訳

  1. `昔、道命阿闍梨という、傅殿・藤原道綱の子で、色欲に耽った僧がいた
  2. `和泉式部のもとに通っていた
  3. `読経の上手であった
  4. `彼が和泉式部のもとを訪れ寝ていたときのこと、目覚めて経を心静かに読み始め、八巻を読み終え、明け方に微睡みかけた頃に人の気配がしたので
  5. `そこにいるのは誰だ
  6. `と問うと
  7. `私は五条西洞院の辺りに住む翁にございます
  8. `と答えたので
  9. `それが何の用だ
  10. `と道命が問うと
  11. `この御経を今宵拝聴しましたことは、何度生まれ変わっても忘れられないと存じまして
  12. `と言うので、道命が
  13. `法華経を読むのはいつものことだ
  14. `なぜ今宵に限ってそんなことを言われるのか
  15. `と言うと、五条の斉は
  16. `身清めをされてからお読みになったときは、梵天、帝釈天をはじめ御聴聞なさるので、この翁が近くへ参っても拝聴できません
  17. `今夜は行水もなさらずお読みになったので、梵天・帝釈天も御聴聞なさらず、この翁が参り寄り拝聴できましたことが忘れ難いのです
  18. `と言った
  1. `それゆえ、僅か読み奉るにしても、身を清めて読み奉るべきである
  2. `念仏、読経、四威儀を破ってはならない
  3. `と、恵心僧都も戒めておられる