(一〇〇)下野武正大風雨の日法性寺殿に参る事

原文

  1. `これも今は昔下野武正といふ舎人は法性寺殿に候ひけり
  2. `ある折大風大雨降りて京中の家皆毀れ破れけるに殿下近衛殿におはしましけるに南面に喧騒る者の声しけり
  3. `誰ならん
  4. `と思し召して見せ給ふに武正赤香上下に蓑笠を著て蓑の上に縄を帯にして桧笠の上をまた頤に縄にてげ付けて鹿杖を衝きて走り廻りて行ふなりけり
  5. `大方その姿夥しく似るべき物なし
  6. `殿南面へ出でて御簾より御覧ずるにあさましく思し召して御馬をなん給びける