一〇七九ある僧人の許にて氷魚盗み食ひたる事
原文
- `これも今は昔ある僧人の許へ行きけり
- `酒など進めけるに氷魚初めて出で来たりければ主人珍しく思ひてもてなしけり
- `主人用の事ありて内へ入りてまた出でたりけるにこの氷魚の殊の外に少なく成たりければ主人
- `いかに
- `と思へども云ふべきやうもなかりければ物語し居たりけるほどにこの僧の鼻より氷魚の一つふと出でたりければ主人怪しう覚えて
- `その御鼻より氷魚の出でたるはいかなる事にか
- `と云ひければ取りも敢へず
- `この比の氷魚は目鼻よりふり候ふなるぞ
- `と云ひたりければ人皆
- `は
- `と笑ひけり