原文
- `柏崎の孫太郎もこれなり
- `以前は発狂して喪心したりしに、ある日山に入りて山の神より其術を得たりし後は、不思議に人の心中を読むこと驚くばかりなり
- `その占ひの法は世間の者とは全く異なり
- `何の書物をも見ず、頼みに来たる人と世間話を為し、その中にふと立ちて常居の中をあちこちとあるき出すと思ふ程に、其人の顔は少しも見ずして心に浮びたることを云ふなり
- `当らずと云ふこと無し
- `例へば
- `お前のウチの板敷を取り離し、土を掘りて見よ
- `古き鏡又は刀の折れあるべし
- `それを取り出さねば近き中に死人あり
- `とか
- `家が焼くる
- `とか言ふなり
- `帰りて掘りて見るに必ずあり
- `かかる例は指を屈するに勝へず