七二里の神 - カクラサマ

原文

  1. `栃内村の字琴畑は深山の沢に在り、家の数は五軒ばかり、小烏瀬川の支流の水上なり
  2. `此より栃内の民居まで二里を隔つ
  3. `琴畑の入口に塚あり
  4. `塚の上には木の座像あり
  5. `およそ人の大きさにて、以前は堂の中に在りしが、今は雨ざらし也
  6. `これをカクラサマと云ふ
  7. `村の子供之を玩物にし、引き出して川へ投げ入れ又路上を引きずりなどする故に、今は鼻も口も見えぬやうになれり
  8. `或は子供を叱り戒めて之を制止する者あれば、却りて祟を受け病むことありと云へり

注釈

`神体仏像子共と遊ぶを好み之を制止するを怒り玉ふこと外にも例多し。遠江小笠郡大池村東光寺の薬師仏(掛川志)、駿河安倍郡豊田村曲金の軍陣坊社の神(新風土記)、又は信濃筑摩郡射手の弥陀堂の木仏(信濃奇勝録)など是なり