五五河童

原文

  1. `川には河童多く住めり
  2. `猿ケ石川ことに多し
  1. `松崎村の川端のにて、二代まで続けて河童の子をみたる者あり
  2. `生れし子は斬り刻みて一升樽に入れ、土中にめたり
  3. `其形極めて醜怪なるものなりき
  4. `女の婿の里は新張村の何某とて、これも川端の家なり
  5. `其主人人にその始終を語れり
  1. `かの家の者一同ある日畑に行きて夕方に帰らんとするに、女川のりてにこにこと笑ひてあり
  2. `次の日は昼の休みに亦此事あり
  3. `斯くすること日を重ねたりしに、次第に其女の所へ村の何某と云ふ者夜々通ふと云ふ噂立ちたり
  4. `始には婿が浜の方へ駄賃付に行きたる留守をのみ窺ひたりしが、には婿と寝たる夜さへ来るやうになれり
  5. `河童なるべしと云ふ評判段々高くなりたれば、一族の者集りて之を守れどもなんの甲斐も無く、婿の母も行きて娘のに寝たりしに、深夜にその娘の笑ふ声を聞きて、
  6. `さては来てあり
  7. `と知りながら身動きもかなはず、人々如何にともすべきやうなかりき
  8. `其産は極めて難産なりしが、或者の言ふには、
  9. `馬槽に水をたたへ其中にて産まば安く産まるべし
  10. `とのことにて、之を試みたれば果して其通りなりき
  11. `その子は手に水掻あり
  1. `此娘の母も亦て河童の子を産みしことありと云ふ
  2. `二代や三代の因縁には非ず
  3. `と言ふ者もあり
  4. `此家も如法の豪家にて○○○○○と云ふ士族なり
  5. `村会議員をしたることもあり