原文
- `此家にて或年田植の人手足らず、明日は空も怪しきに、
- `僅ばかりの田を植ゑ残すことか
- `などつぶやきてありしに、ふと何方よりとも無く丈低き小僧一人来りて、
- `おのれも手伝い申さん
- `と言ふに任せて働かせて置きしに、午飯時に飯を食はせんとて尋ねたれど見えず
- `やがて再び帰り来て終日、代を掻きよく働きて呉れしかば、其日に植ゑはてたり
- `どこの人かは知らぬが、晩には来て物を食ひたまへ
- `と誘ひしが、日暮れて又其影見えず
- `家に帰りて見れば、縁側に小さき泥の足跡あまたありて、だんだんに座敷に入り、オクナイサマの神棚の所に止りてありしかば、さては、と思ひて其扉を開き見れば、神像の腰より下は田の泥にまみれていませし由