一九 宮城野

現代語訳

  1. `名取川を渡って奥州街道第七十番目の宿・仙台に入る
  2. `家の軒端に菖蒲を葺く日・五月四日である
  3. `旅宿を求めて四・五日滞在することにした
  4. `ここに、絵師・北野加右衛門という者がいた
  5. `いささか風流を解す者と聞いて親しくなった
  6. `この者
  7. `数年来、はっきりしていない名所を調べておりまして
  8. `と、一日案内してくれた
  9. `宮城野の萩が生い茂り、秋の景色が偲ばれる
  10. `源俊頼はとりつなげ 玉田横野の 放れ駒 つつじが岡に あせみ咲くなりと歌に詠んだが、折しも玉田、横野、榴ヶ岡馬酔木の花が咲く時節である
  11. `木漏れ日も差さぬほどの深い松林に入って、
  12. `ここを
  13. `木の下
  14. `といいます
  15. `と言う
  16. `昔もこんなに露深かったので、
  17. `御侍 御笠と申せ 宮城野の 木の下露は 雨にまされり
  18. `古今集の東歌に詠まれている
  19. `薬師堂や榴ヶ岡天満宮などを拝んで、その日は暮れた
  20. `そして、松島・塩釜の所々を絵に描いてくれた
  21. `さらに、染の匂いをは嫌うという、菖蒲の花と同じ色の、紺の染緒を付けた草鞋二足を餞別にくれた
  22. `これぞ立派な好事家、ここに至ってその真骨頂を見た
  23. `菖蒲草 足に結ばん 草鞋の緒