三 草加
現代語訳
- `今年は元禄二年か
- `奥羽への長旅をただなんということもなく思い立って、
- `世阿弥の『竹雪』にいつを呉山にあらねども、笠の雪の重さよ、老の白髪となりやせんと歌われるごとく、遥か異郷に苦労を重ねて白髪となる
- `とはいえ、耳にしただけで、いまだこの目に見ぬ地、
- `もしも生きて帰れたら
- `と、あてにならぬ望みをかけて、その日ようやく奥州街道第二番目の草加という宿に辿り着いた
- `痩せて骨ばった肩にかかる荷物にまず苦しんだ
- `ただ身ひとつでと発ったつもりでも、紙衣一着は防寒の夜着
- `浴衣、雨具、墨筆の類、また断りきれなかった餞別などは、さすがに捨てるに忍びなくて、足手まといになっているのには困った