現代語訳

  1. `これはとりわけ和州・大和の申楽(猿楽)である
  2. `一大事である
  3. `およそ怨霊や憑物などの鬼は面白味への手がかりがあるため容易である
  4. `脇や連れなどの相手役目がけて細やかに手足を使い、鬼の象徴として冠る物頭を軸にして演ずれば面白味への手がかりができる
  5. `真の冥途の鬼をよく学ぶほど恐しいばかりで面白いところなどどこにもない
  6. `本当はあまりの大事なわざ故にこれを面白く演じられる者が稀なのかもしれない
  7. `まず、本質は強く恐しいものであろう
  8. `弱きと恐しきは面白き心とは異なる
  1. `そもそも、鬼の物真似には一方ならぬ大事がある
  2. `うまく演ずるほど面白味がなくなるという道理である
  3. `恐しいところが本質なのである
  4. `恐しき心と面白きとでは黒白の違いである
  5. `ゆえに
  6. `鬼の面白いところを表現できる仕手は能をきわめた上手
  7. `ともいうべきか
  1. `しかし、鬼神を好んで演ずるような者は殊更花を知らぬ仕手といえよう
  2. `ここに、若い仕手の鬼は未練達故によく演じたように見えても面白くないがある
  3. `老若問わず鬼ばかりをよく演ずる者は鬼も面白くない、という道理も成り立つのではあるまいか
  4. `詳しく習うがよい
  5. `鬼を面白く表現するための嗜み、それは巌に花の咲くが如し