(一八九)土佐判官代通清人違ひして関白殿に逢ひ奉る事

現代語訳

  1. `これも昔の話、土佐判官・源通清という者がいた
  2. `歌を詠み、源氏物語、狭衣物語などをそらんじ、花の下・月の前と風流を好み歩いた
  3. `そのような数寄者なので、後徳大寺左大臣・藤原実定が
  4. `大内裏の花見をするので、必ず参れ
  5. `とお誘いになったところ、通清は
  6. `よいことに出会った
  7. `と思い、すぐぼろ車に乗って出かければ、後から二・三台車を連ねて人が来るので
  8. `間違いなくこの左大臣が来たもの
  9. `と思い、尻の簾をかき上げて
  10. `ああ大変、ああ大変
  11. `早く早くおいで下さい
  12. `と扉を開けて招いた
  13. `ところが、それは関白殿がどこかへお出かけになる途中であった
  14. `招くのを見て、御供の随身が馬を走らせて駆け寄り、車の尻の簾を斬り落とした
  15. `そのとき通清は、慌て騒いで前から転げ落ち、その拍子に烏帽子を落としてしまった
  16. `実に気の毒であったとか
  17. `数寄者というのは少し間抜けなのであろうか